板挟みになることが多い情報システム部門
頼むから決めてくれ
情シスで仕事をしていると、かなりの確率で遭遇する場面。新規プロジェクトで言えば要件定義フェーズでの仕様確定や受入試験の承認。運用フェーズで言えば、障害発生時での方針決定など。日々の仕事でのちょっとしたことでのやる・やらない。
情シスの仕事は誰かの仕事の後工程であることが多いため、この「決める人たちが決めることを決めない」と言うのは死活問題。多くの場合は「期限は変わらず、期間が短くなる」というデスマーチフラグが確定したタスクに無事、昇華します。
一般的に、未来はどうなるか分からないとされているんですが、確定した未来とは不思議なものです。
知っておくと納得する人間という生き物の真理
人間は朝起きてから1日で何回の選択をしているのか?最新の研究(2025/12現在)だと最大で3万5000回と言われています。何を食べるか?何を着るか?にはじまり、仕事では常に選択の連続。そう、脳は疲れているのです。
「決めるのが面倒くさい、いつものでいいや」。これは、人の脳の動きとして「できるだけ頭を使わないようにしよう」とする自然な現象と言われています。できるだけ真剣に考えず、一つ一つの選択を省エネに時間とストレスとカロリーを使わないようにしたい。そして、これが無意識に行われている。
この動きをできるだけ「無意識」で行うために、脳は過去の経験で、何かをやった時に良かったか・悪かったかを記憶しています。それによって、自分にとって無難な、最もコストが低く効果が高い選択を覚えているのです。この選択のセットを「習慣」といいます。
「決めない人」。これは、決めないことがその人にとって一番コストが低く効果が高い行動なのです。無意識にやっているので、そんな人に「決めてください」といっても、よっぽどの別の力学が働かない限り決めない。「決めないこと」がその人にとって一番の選択なのです。
結構知られていないが、かなりの確率で決めてもらうやり方
はじめに、考え方を大きく変える必要があります。「ひとは決められない生き物なんだ」と割り切ること。決められないんです。このスタンスのほうが、精神衛生上良い。では、どうするのか?決めてもらうために、頭を使う負荷を下げてあげるのがポイントです。
例えば、何かを食べに行った時に「松竹梅」というメニューを見たことはあるでしょう。「松」は高すぎる、「梅」はなんか貧乏くさい。よし、「竹」でいこう。
これはマーケティング用語で「松竹梅の法則」「ゴルディロックス効果」「極端性回避の法則」と言われているものです。決めてもらうために、この考え方をうまく利用するのです。なんでもいいので、決めてほしいテーマに対して、松竹梅の3つのわかりやすい選択肢をだす。「決めてもらう」ではなく、「選んでもらう」のです。
選択肢の違いを明確にするための5大情シス要素「QCDBiR」
選んでもらうためには選択肢を示さなければなりません。食べ物を選ぶように簡単にはいかないのは事実。その選択肢をどうするか?選択というからには、「違い」を明確にする必要がある。この「違い」を明確にするためにはどんな要素を使えばいいのか?
違いを明確にする要素をゼロベースで考えるのはかなり大変です。しかしご安心ください。情シスだからこその鉄板要素があります。それが、5大情シス要素。
プロジェクトの世界でトレードオフの関係として有名な「QCD」に、情シスならではの「Bi(業務影響)」と「R(リスク)」の2つをたした5つになります。
ちなみにこの考え方。理解が進むと、ほぼ多くのケースに適用できますよ、まじで。
Q:品質
Qは「Quality」、そう品質です。一般的に、安く・期間が短いと品質が悪くなる傾向がある。限度はありますが、ある程度のお金と余裕を見越した期間での開発は、品質が高くなります。
日本の多くの企業で何かを進める場合、その多くは手順と順番を丁寧に・・・がほとんど。多くの仕事はウォーターフォール型。つまり、お金と期間のトレードオフなんです。
C:コスト
Cは「Cost」であり、かかるお金のことをさします。世の中理不尽なことが多いです。そもそも「お金をかけない」ことがベースになってしまっていることもあります。それでも、仮にお金をかけることができたらというケースを考えておくことは有効です。
ちゃんとお金をかけていたら、リスクが減るかもしれません。もっと期間を短くできたり、品質を高めることができるかもしれません。何をするにもお金なのですよ。
D:Delivery
Dは「Delivery」、納期・期間のことです。 余裕期間を持って長ければいいかというと、そうでもない。何かが猛烈に遅れると、機会損失になったりします。
世の中一般的に、期間が長すぎることは好まれません。しかしながら、どんな理由があれ、絶対に必要な「期間」というものがあります。この、最低限必要な期間が取れないと、リスクの発生確率と影響度が格段に上がることになります。
Bi:業務影響
英語で書くならBusiness Inpact(Bi)ですね。
事業会社ならではの視点です。開発ベンダーからは絶対に出てこない視点。ぜひ、情シスで働いている人は、この視点を持つことをお勧めします。
情シスが価値を提供する先は経営陣や営業部門、本社機能です。経営陣であれば会社の数字への影響。営業部門や本社機能であれば、彼ら・彼女らの業務にどんな影響があるか?
多くの情シスがこの視点を持っていないことが多い。自分たちのことだけ・自分たちの都合だけで「決めてください」と言っていることが多い。この視点を入れるだけで、グッと会話できるようになります。
R:リスク
最後はリスクです。未来というのは、どこまで行っても100%確定しているということはないです。リスクは「発生確率 x 影響度」の掛け算で考えます。進むべき道、つまり選択肢が複数存在する場合、それぞれの選択肢でこのリスクがかわるはずです。
このリスクは、経営層に説明する時なんかは、絶対にあったほうが良い。未来はどの選択肢をとっても、リスクは少なからず存在しますからね。
3つの選択肢をできるだけ簡単な言葉で
さて、違いを明確にするための要素は理解できました。次にやることは、松竹梅のように、選択肢を3つ考えるということです。
最初は適当で良いです。2個でも4個でもない。とにかく3つ選択肢を考えてみましょう。
選択肢の名称はQCDをベースにするのが楽。「コスト重視案」、「全部のせ案」「最速開発案」といった感じで。名称は分かりやすいほどいい。まれに小難しい日本語や、やたら長い名称にする人がいますが、それはアンチパターン。ポイントがわかりにくくなる。
次にやることは、それぞれの選択肢に対して、5大情シス要素「QCDBiR」で違いを明確にするという作業です。選択肢それぞれに対して、5大情シス要素に○△✖️をつけていきます。
ここで注意点がひとつだけ。各要素には必ず優劣をつける。つまり、要素ごとに○△✖️を必ずつけるということです。○が2つとかは絶対NG。これ鉄則なので忘れないように。
実際やってみると、一発でこれが決まることはないです。しっくりくるまで、例えば前提を置く、粒度を変えてみる、見方を変えてみるなど、いろいろと試行錯誤してみてください。絶対の正解はないです。では、何を持って終わりとするか?それはもう、自分が納得できるかどうかです。
ちなみにこれ、やっていることは「提案」なんですよね。つまり、これができると「提案型情シス」に生まれ変わり。ぜひ、お試しあれ。
<情シスおさえどころ>
情シスだからこそ、システム影響ではなく「業務影響」を採用したい。そもそもシステム影響は「QCD」で言えています。リスクは経営層と会話するときは必須項目。これらの視点が普段からもてるかどうかで、情シスが一目おかれる存在になれるかどうかに大きく影響します。