情シスのスキルマップや必要な資格、学ぶべきスキルなどを調べると、技術的な部分がフォーカスされます。しかし、断言します。それはある特定の場面では有効ですが、全てではありません。
情シスは、ひとつの企業における「情報システム」に関する業務全般を担当する組織ですので、技術だけでは限界があります。この基本を押さえた上で、10年以上の情シスで人材育成をしてきた経験から、情シスで働くうえで必要と考えるスキルをお伝えします。
興味があるところだけでも読めるように編集してありますので、目次からどうぞ。
情シスのスキルマップ
情シスのスキルマップは、3つのレイヤーに分割できます。
いちばんのベースとなるLayer1は、ビジネスパーソンとしての基本スキル。意外に思うかもしれませんが、この基本ができていない人が多いです。多くのネットにある「情シス いらない/無能/偉そう」といった多くの問題は、ここからきています。
次に情シスで働く上での基本スキルがLayer2。3つあって「会計の基本」「ITの基本」、そして「ITサービスマネジメントの基本」の知識です。
その上で、Layer3の専門スキル。コンセプチュアルスキル・コミュニケーションスキル・テクニカルスキルの3つに分類されます。ネットを中心に、世の中でよく会話されているのが、このLayer3のテクニカルスキルです。
※Layer3の「基幹中心大企業型」など3つのタイプはこちらをどうぞ
※Layer3の考え方は「カッツモデル」を参考にしてます
Layer1:ビジネスパーソンとしての基本スキル
ITの知識・経験があってもそれ以前にしっかりと身につけなければならないのが、ビジネスパーソンとしての基本スキルです。
情シスはコストセンターです。プロフィットセンターに所属する同じ会社の人たちが、がんばって稼いできたお金で、ITに関する投資や運用・保守ができるという基本的な会社のお金の流れを忘れてはいけません。
挨拶からはじまり、報告・連絡・相談といったことは基本動作としてやっておきたい。たまに「僕・私はITだから」ということで自分を特別扱いしている方がいらっしゃいます。
IT業界では、そんな働き方が可能な会社はあります。でも、それはお金を稼ぐからです。コストセンターである情シスにおいては、そんなスタンスでは良い仕事はできないです。
仕事のうまい進め方も身につける必要があります。日々の定常業務をこなしながらプロジェクト型の仕事をこなさなければならないことが多いです。仕事の進め方がうまくないと、すぐにタスクに埋もれてしまいます。
Layer2:情シスで働く上での基本スキル
情シスでの基本スキルは次にあげる3つです。IT業界ではない「情シス」という組織で働くうえで必須と断言します。
- ITの基本(ITパスポート)
- 会計の基本(簿記3級)
- ITSMの基本(ITIL foundation)
まずはITの基本。最低限知っておくべき知識というのがあります。経験はなくても、言葉くらいを知っていないと仕事になりません。ちょうどよい資格が、ITパスポート。勉強を通して、ITの世界を学べます。
次に会計の知識。どこの会社でも会計の言葉は共通言語です。この知識があるなしで、仕事の進めやすさや社内での信頼度が大きく違います。IT投資は大きいです。そして、運用・保守にかかるお金も小さくありません。
PLや資産、費用、減価償却といった言葉の意味を知り、会社の数字にいま自分がやっていることがどんな影響を与えるかを理解しておくことは重要です。簿記3級で十分です。
最後がITSM(ITサービスマネジメント)。すごく簡単にいうと、システムを使うユーザーに対してITサービスを提供する活動の考え方です。
企画・運用・保守など担当にかかわらず、情シスに所属するのであれば知っておくべき知識。ITILが有名で、ファウンデーションで十分です。(受験料高すぎ・・・)
たまに、資格は役に立たないという人がいますが、それは整理・抽象化された考え方を実務に落とせない、その人の問題です。(PMBOK/PMPなんか、特によく言われます)
Layer3:専門スキル
専門スキルはコンセプチュアルスキル・コミュニケーションスキル・テクニカルスキルの3つのカテゴリに分類されます。
「情シス」なので、システムだけのことを勉強すればいいのかというとそんなことは全くありません。他部門とのコミュニケーションスキルはとても重要です。物事の本質をおさえて、企画・提案や要件定義をするためにはコンセプチュアルスキルは重要になります。
考慮すべき事項として、情シスの規模によって、コンセプチュアルスキルとテクニカルスキルのバランスが変わるということ。直接支援中小企業型は、その特徴から個別具体的なテクニカルスキル(ITスキル)がコンセプチュアルスキルより必要となります。
一方で基幹中心大企業型は、会社規模が大きいということもあり、IT技術も必要ですが、それ以上にものごとを概念化・可視化したり、整理したりといったコンセプチュアルスキルが必要となります。
コミュニケーションスキルは、どの企業規模でも情シスにとっては同じ割合で必要です。
情シスの悩みの傾向とスキルマップ
世の中で言われている情シスの課題や悩みといったものは、このスキルマップを参照するといろいろと整理ができます。
IT技術がわからない
直接支援中小企業型では、この悩みがダントツです。やることが広い割に、専門技術を全体最適で考えなければならない。そんな状況なのに、相談先もないという状態。
Layer3のテクニカルスキルを中心にスキルアップするのが優先となります。
関係各所への説明がうまくいかない
ITを知らない人に理解させなければならないという悩み。会社規模が大きくなると、さまざまなところに説明をするという仕事が多くなります。
会社規模が大きいと、どうしてもPLを意識しての説明が求められます。その上で、ITに詳しくない人にIT投資の説明をしなければならない場面が多々あります。だいたいが「なんでそんなにお金がかかるんだ」問題。
大規模障害が発生した場合も同様です。ただでさえ複雑な事象を、わかるように説明する必要があります。これが「なんですぐなおらないんだ」問題。
これを乗り越えるためには、コンセプチュアルスキルを伸ばすのがポイントになります。
事業とシステムの橋渡しがうまくいかない
情シスは事業部と会話をして、企画や要件をまとめるといった仕事をします。RFPを作成することもあるでしょう。
事業部に所属しているユーザーは、いろいろな立場の人がいます。話す内容も目先のことから3年先のこと、場合によっては夢の話をしているかもしれません。コミュニケーションスキルが低いと、決められるものも決められません。
情シスでのあるあるのひとつとして、あいての都合を考えずにシステム都合の話ばかりをしてしまい、ユーザー側から反感をかってしまうこと。コミュニケーションスキルは学んで損はないです。
時間がない
時間がない根本原因は組織的な問題が大きいのは事実ですが、それとは別に各自の仕事の進め方がうまくない場合があります。
IT技術を追いかけるあまり、自身の仕事の進め方がうまくなかったり、チームで連携が必要なのに、うまくチームと関わり合いを持てなかったりといったことが多々あります。
あらためて自身の仕事の進め方を見直すと、打開策が見つかることがあります。
周囲から理解が得られない
この悩みを脱却するヒントがLayer2のスキルです。
情シスは周囲からの理解が得にくいことを前提として仕事を進めた方がうまく行きます。まずは事業の理解とともに会計の知識をつけて、会社の共通言語で話すことを学ぶのが優先になります。
会社の共通言語でで話せるようになって、はじめて周りはIT側の言葉を聞いてくれます。そうしないと、いつまでたっても周囲から「ITの人たちはわからない」といわれておわりです。
ITSMを勉強すると、ITサービスの提供において何を優先すべきか、問題が発生した時にどのように対処すれば良いかが理解できます。それは結果として、ユーザーの満足度に直結します。ユーザーが満足してくれれば、それは情シスに対する良い評価につながります。
勉強の進め方
情シスはコストセンターですので、十分な研修や教育制度が整っている会社というのはまれです。その中で、自身のスキルを磨いていかなければなりません。
IT業界から転職されてきた方は、一定のベースがあり、それまでの知見からある程度の勉強の方法というのは持っていたりします。そうでない方は、何からやったらいいかわからないというのが現実です。
勉強の仕方は、業務で必要に迫られていることから始めるが効果が高いです。社会人の良いところは、学んだことをすぐに実務にいかせる環境にあるということ。「必要に迫られ学び、それを実務で使う」のサイクルは最強です。
勉強といっても特別なことはなく、だいたい次にあげるどれかになります。最近ではUdemyといったオンランで学べる教材もあります。IT技術はネットで勉強できることが多いですが、内容が古かったり間違っていることがあるので、注意が必要です。
実務・転職に必要な資格
実務に必要な資格は、Layer2にあげた「ITパスポート」「簿記3級」「ITILファウンデーション」の3つです。情シスでどんな担当・役割をしていても、かならず実務に役立ちます。
Layer3ではどんな資格が必要かと言われれば、それは企業規模・担当によって様々になります。一言でこれだというものはありません。
会社でAzureしかないのに、AWSの資格をとっても意味はないとは言いませんが直接的ではないです。ベンダーマネジメント中心に開発を担当しているのに、システム監査技術者試験といわれても、使う場面は少ないでしょう。
転職に有利な資格があるかどうか。結論、「転職先の会社次第です」が答えです。いくら難しい資格を持っていても、転職先の企業がその資格を知らなければ、単なる記号にしかなりません。
おすすめ資格・いらない資格
個別具体的な資格名称は避けますが、実務・キャリアとしておすすめな資格、いらない資格の傾向はあります。
おすすめ・取っておくとかならずそのあとの仕事にいきる資格は、Layer2にあげた「ITパスポート」「簿記3級」「ITILファウンデーション」の3つ。
Layer3のテクニカルスキルとして、次のどれかにあてはまる資格で業務に直結するならおすすめ。あてはまらない資格は避けた方が良いです。
・世界的に知られている資格(PMP、ITILとか)
・大手ベンダー系の資格(CCNAとか)
・国家資格(ITパスポートとか中小企業診断士とか)
・日商簿記検定
特に会社設立から歴史が浅く、あまりよく知られていない団体の資格は注意が必要です。勉強したその知識自体が偏っている場合があります。それは、実務で使えない可能性があるということを意味します。
よくある誤解(ネット記事について)
ネット記事での情シスに関する資格や勉強方法は、とにかく偏りが大きいです。スキルマップのLayer2は必須として、それ以外の勉強・資格の必要性の判断基準は、今の自分の担当業務・役割に直結するかどうかです。
IT技術にいきがち
とにかくネットの情報はIT技術にいきがちです。特に資格に関してはIT技術関連が全面にでてきます。理由はベンダーや研修会社が売り物にしやすいからです。会社がSEO対策をしているので、目に留まりやすい。
もちろん、IT技術も必要ですがそれ以前に、基本的なビジネススキルや会計知識、コミュニケーションスキルといったことも必要であることを理解する必要があります。
担当が意識されていない
情シスにおすすめ資格などがでてきますが、情シスでの担当・役割が意識されていないことが多いです。もし、情シスで働く人に共通な資格があるとしたら、「ITパスポート」「簿記3級」「ITIL foundation」の3つです。
それ以外は、情シスで担当している業務次第です。
新しい製品・ツールにいきがち
どうしても製品・ツールにいきがちです。実際に使っていない製品・ツールの勉強を一生懸命する必要はないです。まずは、今あなたの会社で使っている製品・ツールに詳しくなりましょう。
実務でも使えますし、案外製品・ツールを十分にいかしきれていないことは多いです。一つの製品・ツールに詳しくなると、他製品・ツールとの比較ができるようになります。
案外、勉強できる環境にいるにもかかわらず、それに気がついていない人が多いです。
情シスの規模が考慮されていない
情シスはその規模によって、「直接支援中小企業型」「IT全部一般型」「基幹中心大企業型」に分けられます。その情シスのタイプにより、仕事内容というのは大きく変わります。それは、力を入れて学ぶ内容が変わるということです。
自分の手足を動かす比率が高い「直接支援中小企業型」と、ベンダーなどの支援をうけて仕事をする「基幹中心大企業型」では、明らかに学ぶ内容が異なります。
以上、情シスのスキルマップを3つのレイヤーに分類して説明しました。Layer1〜Layer2はどこの情シスでもどの担当でも共通のものです。Layer3は情シスの規模によって、力をいれる内容が異なります。
情シスのスキルマップが皆様の参考になると幸いです。
目次
・IT技術がわからない
・関係各所への説明がうまくいかない
・事業とシステムの橋渡しがうまくいかない
・時間がない
・周囲から理解が得られない